臨済宗でよく読まれるお経はなんですか?とくに自宅のお仏壇の前でなにを読めばいいでしょうか?「臨済宗のお経」について質問をいただきます。
よく読むお経としては、般若心経、観音経など。お仏壇の前で読むべきお経はとくに定めない、となります。
強いるお経はないと言うものの「般若心経のあとに本尊回向、そして大悲呪や観音経のあとに亡者忌回向」「般若心経を一心にご読経するのみ」がお答えとなりますでしょうか。臨済宗は他宗派ほど決まってはいないのです。
◆臨済宗の「お経」を読むとは
そもそもお経とは仏教の辞書をひきますと、ひとつにはこのようにあります。
三蔵(経・律・論)の一としての経。釈尊の説法を集めたもの。仏説の他に仏弟子・菩薩・天人などの説いたものもあるが、いずれも後で仏によって賞讃印可されているから、仏説と見てさしつかえない。さらに広くは文字に書かれていない神羅万象をも指す〔新版禅学大辞典:経より〕
仏教のはじまりとなった人お釈迦さまは、約2500年前にインド・ネパールのあたりで活動をしていた、わたしたちと同じ人間です。
彼の説いた内容をまとめたものがお経です。世の中の真理を悟った者であるブッダ・仏、彼の説いた教えがお経なのです。
当時文字がありませんでしたので、はじめは口伝、そして文字に起こされます。お釈迦さまが生前どのような活動をしていたのか、様々な言語で残されていきます。
お経は「如是我聞(にょぜがもん)」の四文字からはじまります。どこで、だれと、どんな話をしていたのか「私はこのように聞いた」。お経のはじまりに「如是我聞」とあるのは、お経に書かれている真理とは他人ごとではないわたしの物語であることを言います。説いているお釈迦さまは相手や場所に応じて言葉を変えていることを示しているのです。そのため私たちはお経を読むとき、お釈迦さま・ブッダ・仏は本当はなにを言いたかったのかを見てとる必要があります。小説を読むときと同じですね。
臨済宗では「不立文字(ふりゅうもんじ)・教外別伝(きょうげべつでん)」といい、文字を立てない・教えの外で別に仏教が伝わるとしています。お経をないがしろにするのではなく、文字は文字として学ぶけれども、その文字面に目をくらまされず、その本質を見極めるようにと言うのです。
相手や場所に対応して、真反対の言葉をそれぞれ別の人に言うことがあります。頑張って欲しい、そのために、とある人には優しく諭し、とある人には厳しく叱るように。
であるならば、どこで、だれと、どんな話をしていたのか、文字面や状況といった表面はそのままに写し取り、その内容のさらに奥を見る必要がある。
法句経や阿含経、仏教聖典といった、よりお釈迦さまの生に近い内容の「お経を読む」ことの臨済宗における意味がそこにあります。
◆仏説に、仏性を見る
さらにもうひとつ「お経」に観音菩薩などさまざまな仏さまが登場するものを読むときは、その仏さまの性質がわたしのなかにもあると受け取ることです。
臨済宗では「見性成仏(けんしょうじょうぶつ)」といい、臨済宗開祖の臨済義玄禅師の教えにこうあります。
人間生まれながらにだれもがそなえている尊厳で純粋な人間性をみずから悟ることによって(見性)、仏と寸分も違わぬ人間の尊さを把握する(成仏)ところにある〔臨済宗信行経典より〕
お釈迦さまは、のちに如来という尊格に神格化され、釈迦牟尼如来となります。
仏には如来、菩薩、明王、天という尊格で分類されます。
たとえば観音さまは菩薩です。さとりきったけれども悩める人々のためにともに頑張る修行者として私たちの伴走者となってくださっている仏さまが菩薩です。
そんな観音さまがサーリプトラさん(舎利子)に空という智慧について論じているお経が般若心経です。観音経はそんな観音さまの慈悲実践の姿を表しています。
陽岳寺の本尊は十一面観世音菩薩さまです。観音さまが変化した姿のひとつです。
「本尊」とは、外にある仏像を見て、その仏さまの性質がわたしのなかにはある・わたしたちの主人公であると受け取る必要があるものです。仏の説いたお経、仏説と同じです。
般若心経のように、お釈迦さまの言行録だけではなく、その他の「仏の尊格」が説いたものもお経となっていくのです。
◆臨済宗は根本経典ではなく勤行経典
根本経典という言葉があります。日本にある伝統仏教13宗56派の多くには、この宗派ではこのお経がとくに大切だ!とするお経があります。これを根本経典といいます。
臨済宗妙心寺派の宗綱にはこうあります。
本派は、釈尊の正法眼蔵を宗旨とし、無門をもって法門とするがゆえに、特に所依の経典を定めないが、衆生縁により衆生教化のため、古来の慣習によって左記の経典を読誦する。金剛般若経、…〔臨済宗妙心寺派宗綱:第一章総則(経典)第八条より〕
日蓮宗や天台宗では法華経、浄土宗や浄土真宗では浄土三部経が根本経典となります。
臨済宗ではこのお経をとくに大切だ!という根本経典がありません。
文字ではなく、その奥にあるお釈迦さまの教えがとくに大切だから、というのです。ですから所依の経典(根本経典)をもちません。
根本経典はありませんが、よく読むお経として大切にする勤行経典があります。
「お経」を読むときは、お経とは尊いものだと信じて一心にお唱えすることがおすすめです。臨済宗・禅宗の無心に通ずるからです。
もし何を読めばいいかと悩まれましたら、般若心経、観音経、白隠禅師坐禅和讃、延命十句観音経などのどれかをお読みください。
または陽岳寺YouTubeチャンネルをご活用ください。僧侶と一緒にご読経いただけるようにと準備いたしております。
臨済宗妙心寺派直売店ウェブショップで購入できる「勤行聖典 日課経(1100円)」「臨済宗檀信徒経典(880円)」や、陽岳寺が法要でつかう臨済会「聖典」が便利です。
なお、臨済宗でよく読むさまざまなお経には、お経の扱い方について書かれています。
声に出して読む、耳で聞く、写経する、記憶する、家に安置する、身につける、説法する、供養するなどです。写経もおすすめです。
臨済宗のお経についてお話しをいたしました。(副住職)
●コロナ禍となり、陽岳寺YouTubeチャンネルを続けています。お仏壇やお写真の前で、一緒に読経できるようご用意しています。 https://www.youtube.com/channel/UCHbcF0FYkOp5kp0bHPQksXQ
●市童のらくご[2021年4月15日(木)、5月9日(水)、6月21日(月)、7月16日(金)、8月18日(水)]開場19時 開演19時半/木戸賃:予約1500円 当日1800円/備考 マスク着用を願います。体調の悪い方はご遠慮ください。開催時間の変更など詳細は陽岳寺ウェブサイトをご覧ください。