【コラム】路逢達道

投稿日:2020年3月1日 更新日:

春のお彼岸は3月17日(火曜)~23日(月曜)。お中日は3月20日(金曜日の祝日)です。

お彼岸は盆暮れ正月に並び、お墓参り強化週間とも言える期間です。

彼岸に際し、感染症の影響で墓参できないかもしれません。そんな時は遺影の前で、お仏壇に向かって、手を合わせる合掌をお勧めいたします。そして故人の姿を偲び、思い出にある「その人の思い、言動」をくみ取る、ということをしていただければと存じます。

臨済宗においてよく読まれる本のひとつ『無門関』(公案集/問題集/故事集)の第三十六則「路逢達道」にこうあります。

本則(今回のテーマ/問題文):
五祖曰く、路に達道の人に逢わば、語黙をもって対せざれ、しばらく道え、なにをもってか対せん。

【本則意訳】五祖法演禅師が言った。「なにかしらの道の達人に出会ったならば、言葉や沈黙で出会ってはならない。さて何をもって対面したら良いか。」

 

ひっかけ問題のようですが、答えは単純で「どうも、こんにちは」です。人に出会ったらどうやって手を動かして、どこを見て、どんな言葉を話して…など変に考えはしません。

普通のことを、普通にする。人はみなそれぞれ自分の道を歩む達人です。人に出会ったならば、いつもの「こんにちは」という挨拶です。

◆人に向かって行う「合掌」

仏さまに対しての挨拶とは、手を合わせる合掌です。ここでひとつ、人間に対する敬礼法「手を合わせる」を考えてみます。

西遊記で有名な玄奘三蔵の『大唐西域記』には、インドにおける対人の恭敬の儀法が様々あるなかに「合掌しておじぎをする」があると記されています。

恭敬(くぎょう)とは、その人の功徳を念じて、その人を尊重すること。恭敬の動作として「尊重礼拝、迎来送去、合掌親侍(敬いの気持ちでおじぎをし、来たるを迎え去るを送り、合掌し よく仕えること)」があると『十住毘婆沙論』に記されています。

仏さまに対しての合掌とは別に、人に対する合掌もあり、その内容とは「あなたを尊しとする表現」であることが分かります。

 

あなたを尊しとする。大切に思う。

この合掌とは、生きている人だけを相手にしたものではありません。お墓参りやお焼香のときに、わたしたちが手を合わせるように、亡き人に対しても合掌をします。

この時、習慣だから/そういうものだから、わたしたちは手を合わせているように思います。目も閉じているでしょうか。

右に記したように、実はそこには「あなたを尊しとする」意思があったのです。

遺影やお墓を前にして、手を合わせて目をつむり、亡き人に対して、あなたを大切に思っていますよ、と心中にて声掛けをする。体で表す。

これが合掌の作法とも言えそうです。

◆命を引き継ぐ

人は繋がりのなかに生きています。繋がりとは、ひとつひとつ、とても貴重なものです。

いまこうして護寺会だよりをお読みいただけるのは、わたしがパソコンで文章を書き、コピー用紙をプリンターで印刷して、郵送され、手に取っていただいたおかげです。読むまでに、数えきれない人間が関わっています。

「一期一会(この出会いとは、二度とない、一生涯中の出会い)」という言葉があります。きのうと今日で毎日会っている人同士でも、きのうの私と今日の私、きのうのあなたと今日のあなたは違う人間です。考えていることや体調を鑑みればまさしく別人であり、この出会いが今生の別れかもしれません。

人が生きていくなかで対面する出会いとは、ほんの接点の危うさの上にある。だからこそ、手を合わせるのかもしれません。そんな出会いを大切に思うならば、その出会いからなにかをくみ取る必要があるとも思うのです。

本を開くたびに、目に飛び込んでくる言葉、記憶に残る文章が違うように。人との出会いも、そのたびに私の中に残るなにかがある。

1周忌、3回忌…と年回忌のたびに、毎年の墓参のたびに、故人との新しい出会いがある。先に逝ったあの人からのメッセージがある。

これを「命を引き継ぐ」と言うのではないしょうか。

お墓参りや年回忌法要とは、亡き人との出会いのチャンスであり、そのたび「命を引き継ぐ」機会でありましょう。

故人の姿を偲び、「その人の思い、言動」を自分が受け取っている。何かしらの形で今の私に影響を及ぼしているなと実感できるのですから。

そのために、いつものように、手を合わせる。あなたを大切に思っています…の表明が大切です。お彼岸とは絶好の機会です。

会ったことがなくとも、話を聞いただけでも、本を読んだだけでも、それも出会いです。人と対面して、私のこころや記憶に残る「その人の思い、言動」に触れること。路逢達道。本当に人と出会うとは、合掌にヒントがあるのではないかと思うのです。(副住職)

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